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「ああもう何でも良いよ。面倒だから追々話す」
「面倒だから!?今話す必要はないからとかじゃなく?」
「じゃあそれで」
貸し切り状態を良いことに、わーわーとオノマトペのように叫び散らす太一を適当に宥めながら、ミサは窓の方に目を向けた。
電車の進路は広大に澄み渡った田園風景ではなく、山紫水明、自然の美しさを称える日本固有の山道になっていた。
春の到来を一足早く感じ取った木々が青々と茂り、小川が流れる様はなかなか風靡なものだ。
「だってよ、家の前に貞子っぽいのがいたんだぜ!?『呪ってやらんこともない』的なオーラバンバン、あれじゃ聞くに聞けねーじゃん!それに……」
……この男さえいなければ、ミサは強くそう思う。
が、それ以上に気になることもあった。
「…潟滝君」
「…、何?」
「盛り上げ兼ねてくれるのは結構だけど、いくらなんでも馴れ馴れしすぎないかい?」
「そうか?」
ミサは「そうとも」と言ってそれからは何も言わなかった。
彼は元から人と話すことは好きではないだろうと太一は適当に考えていたが、恐らく今の反応は根本的に何かが違う、そう思った。
思い返せば、先日の自分は彼に激怒したり勝手なことばかり言っていた気がする。
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