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ミサに限らず誰だっていきなり現れた見ず知らずの人間に糾弾されれば不愉快になるはずだ。
もし仮にあの日『お前なんざ生きる価値はない』とか言っていたら、今こうして相席なんて真似はできなかっただろうな。
太一は無言で考え込みながら、一方的な罪悪感に苛まれた。
しかし彼自身、無気力に駅員の最期を見届けたミサを責める気持ちもある。
結局「ま、いいか」と鑑みるに難いことは無意識に遠回しにする若者にありがちな対処法を実行してミサに倣って外の風景を堪能した。
「…へー綺麗だな」
「そうだね。空気が美味しそうだ」
「ああ、やっぱ都会とは違う感じだ」
「そりゃそうさ。森ってのは神秘的だから歌詞作りの参考にもなる」
「なるほど、ああいうのを神秘的な『森ガール』というのか?」
ミサは太一の視線は風景ではなく通りを歩く女性に向けられていたことに数秒遅れて気づく。
「……何となくだけど君とは色々合わない気がする」
「え?あ、もしかしてお前って森ガールは好みじゃな--」
『次は小鳥遊川~小鳥遊~…』
聞こえてきたアナウンスに「ん…どうやら着いたみたいだよ潟滝君」と無理やり太一の言葉を遮断してミサは鞄に手をかけた。
電車の進路にはこじんまりとした無人駅が見える。
支柱や雨除けの屋根には蔦が絡みついた良い意味でノスタルジックな駅だ。
『たかなしかわ』
それが彼らの旅先の地名だった。
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