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「おお!旅館!!」
「何のひねりもない事実確認ありがとう、潟滝君」
駅を出て道成りに進んだ先に旅館『たかなしかわ』はあった。
太一の驚き具合から分かるように自然との調和が美しい、有名な料亭のような佇まい。
どこからともなく聞こえる小川のせせらぎが旅館の上品さをさらに強調している。
しかもミサ曰く旅行、観光雑誌にはたまにしか載らない穴場スポットらしい。
太一の中でミサの株が最も上がった瞬間だった。
「あ~、キラキラした目をしてるとこ悪いんだけど」
「何だよ?それより早く入ろうぜ」
ミサから初めてライブするために泊まりがけだと聞かされた際に着替え持ってきてねー、学校どうすんだよ、親になんて言われるか(きっとお土産買ってこい的な)…三重苦に悩まされていた時とは打って変わって太一はご機嫌モードだ。
しかしそれに水を差すようにミサは言った。
「ここに泊まれるのは俺だけだ。君はあっち」
「へ?あっち…?」
太一はミサの指差した方向を見た。
その先には何と言うか、未開拓な森がある。
緑一色のコントラストが美しい。
「いやいやごめんね、潟滝君。桧子が出してくれたのは切符代だけでね」
「……」
ミサはマジックの種明かしをするように薄く微笑む。
「君は3日くらい野宿だ。はっはっは」
「『はっはっは』じゃねーよ!!!何その“3日間0円生活”プレイ!!?」
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