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ミサは旅館の玄関で女将に荷物を預け、部屋の案内を聞きながら館内を見渡した。
和で統一され、自然との調和、融合を備えた座敷は細部にまで手が行き届いている。
職人技とも言える装飾、木製家具の配置や間取りは恐らく風水術にも通ずるものがあるのだろう。
そして吹き抜けになっている中庭は枯山水の見事な日本庭園だ。
飾り気こそないが、むしろそれが素朴なオリエンタリズムを醸し出している。
その上遠くから小川のせせらぎが……聞こえてくるはずなのだが、何故だかバシャバシャと騒々しい水音がする。
地元の子供たちが遊んでいるのかもしれない。
……が、ミサが探しているのはそんな風流なものではない。
彼が探しているもの。それは一人の女性だ。
名前も年齢も定かではないが、必ずこの地にいる。確信があった。
「あの、女将さん」
「はい、何でしょう?」
やんわりと返事をする女将に彼は「ここって今他に泊まってる人いますか?」とだけ言った。
「えぇ、一組だけ。今は外出中みたいですが、御知り合いの方で?」
「いえそうではありませんが、平日にもかかわらず珍しい人もいるのかなと」
「ふふ、それを言うとお客さんも珍しい人に……あ、ほら帰って来られた」
言われて、女将の向いている方にミサは振り返った。
開けっ放しの扉の向こう。
1人の女性とその娘だろうか、10歳くらいの女の子が手をつないでこちらの方へ歩いている。
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