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「……ビンゴ」
女性を遠目に見つめながら、ミサは女将にも聞こえないくらいの音量でそう呟くと、これは自分で持ちますよとギターケースを肩に掛けたまま自分の部屋に移動した。
(間違いない。あの女の人だ)
彼は部屋の座布団に座ると天井を見上げた。
不安だったり、動揺したりした時のいつもの癖だ。
(“察知”してから割と早く見つけられて良かった)
ギターケースを枕代わりにして、そのまま後ろに倒れ込む。
(まだ余裕もあるし、ライブは明後日くらいがいいか)
最後の一言は胸中では語られない。
「あの人も、死んじゃうんだよな…」
††††††††††††††
「おぉ!川だ!!」
時を遡ること数分。
ミサが旅館で太一の釣り竿とテントの手配をして、『そろそろ女将さんに部屋に案内してもらおう』と思っていた頃。
太一は何のひねりもない事実確認をしていた。
森を突き進むこと数分。
そこには幅10数メートルの川が流れていた。
山の中ということもあり、確かに水の透明度が高い川だ。
飲むためにわざわざ上流の湧き水を汲みに行く必要性はないだろう。
この頃には気分もまだマシになっていた太一は、自分を慰めるように川に走り寄った。
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