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「おおぉ……すっげ」
川は外側に緩くカーブしていて、太一がいる方は大小バラバラの礫岩の河原になっていた。
川を挟んで反対側の方は岸から木々が生い茂り、森と化している。
「景気づけにこのまま潜っちまいたいけど…」
川を前に太一は少し悩んだ。
と言うのも、上流特有のゴツゴツした岩が堆積している川底は、裸足で歩くには危なさそうだった。
「潜るべきか止むべきか……ん?あれはまさか…」
一瞬黒い影が川を横切った。
間違いなく魚影だ。しかもかなりデカい。
穫って塩焼きにでもすれば今日一日は郷土料理気分が味わえるだろう。
「太一、行っきまーす!!!」
潜ることに決めた太一は上半身裸になって適当に木の枝を拾うと、一気に川に飛び込んだ。
「うおっ冷てえぇ!!」
ガチで冷たいってかヤバい!
水ヤられだ、水ヤられ!!誰かウチケシの実をー!!
……いや、マジで。
ドボンという大きな音とともに水柱が立つ。
光の屈折でかかった人為的な虹が太一を包んだ。
それと同時に芯を突くような寒冷が彼を襲う。
思えばまだ春先。
雪解け水由来の川の温度は恐らく10度ないしそれ以下。
冷蔵庫で長時間冷やしておいた冷水のそれに等しい。
ましてや準備運動すらしていなかった彼にはさぞ冷たかったことだろう。
「……」
ざばっ
彼は無言で川から上がった。
春の陽気が優しく彼を迎え入れる。
彼はもう一度川を一瞥した。魚影はもうない。
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