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「ふっ…やりおるわ」
見事な敵前逃亡の末とは思えない上から目線の物言いとともに太一は川に背を向けた。
その肩は遠くからも分かるくらいにブルブル震え、肌は総毛立っている。相当寒かったらしい。
少しはしゃぎ過ぎたかもしれない…そんな後悔が更に彼のモチベーションを下降させた。
まだ右手に握っている木の枝が寂しく揺れる。一度言ってみたかった『とったどおぉぉ!!!』と。
「…素直に釣り竿使うか」
少し残念そうに太一はそう言いながら服を抱えて木の枝を川に放り投げ、元来た道を引き返そうとした。
あまり期待はできないがミサが釣り竿とテントの手配をしてくれているらしい。
現実問題、そうしてもらわなければこのアナーキーサバイバルを生き抜く自信はない。
色々思うことはあったが、太一はぼーとしながら踵を返した。
「ぐほぁっ!?」
その時だ。何かが太一の鳩尾に突っ込んだ。思わず声がでる。
「うぎっ!?」
息が止まるほどの鈍痛に思わず体をくの時に曲げると、今度は顎に一撃が加わった。
何が何だか分からない間に2コンボ決められた太一は、よろけながら数歩下がり前方を確認する。
すると、目の前にも同じように涙目で体をくの字に曲げ「あいたた…」と頭を撫でる少女がいた。
10歳くらいの女の子だ。
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