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「お兄さんには誠意が感じられないよ、誠意が!!」
「はぁ…」
太一は深くため息をついて目を半分閉じた。
朝いきなり駅に呼び出され、山に着いたと思えば寝泊まりの場所すら用意されておらず、結果見知らぬ少女に責め立てられている。
その状況にげんなりしないほど、彼は大きな心を持っていなかった。
同時に彼は少女の姿を改めて見回す。
彼女は袖や裾にフリルがあしらわれた半袖の藍色のワンピースと、先ほどぶつかったせいで外れてしまったのか、手には大きな麦わら帽子を持っていた。
身長は自分の鳩尾と同じだから大体135センチくらい。
髪の毛はかなり長く橘桧子に並ぶものがありそうだが、櫛でよく解かされた黒髪はそのくりくりした瞳を隠すことなく緩やかに床に向かっている。
正直な感想としては、光源氏計画を実行されてもおかしくない容姿だと彼は思う。
数年後に化けるという言葉がピッタリ似合いそうだ。
「--ねぇねぇちゃんと聞いてる!?わーわー無視ですかそうですか何なんですか全くもー!」
このキンキン声さえなければと太一はわりかし真剣に考えてみたりする。
「だから謝ったじゃんか。めんご」
「あー!だからそれがイヤなんだって!」
「失敬な。『めんご』は大して罪悪感がないにも関わらず謝罪の意を表さざるを得ないときに体よく使える便利ワードなんだぞ」
「ぜ、絶対嘘だー」
「本当だ。道徳の時間で習わなかったのか?たく、これだからゆとり世代は」
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