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まるでこの世の終わりみたいな絶望的な少女の表情を見て太一は確信する。
こいつイジリ甲斐がある、と。逸材と言っても良いだろう。
太一にとってそのポジションに位置する人間の筆頭に永田という男がいるが、この少女はそれとは根本が違う。
前者は完璧に悪気があり、常に『ここでイジって』とカンペを出しているような男だ。信用ならん。
が、この少女は天然で疑うことを知らなかった。
いくら子供とはいえ多感な小学生としてはやはり希少な存在だろう。
現に今も割と本気でキレていた。
「もぉ!!そんなに幼気な子供を騙すのが好きなの!?」
「一概には否定できねーかも」
「開き直っちゃった!!ええーい、不届きな!名を名乗れ!!」
どこのアニメの引用かは知らないが、そう聞かれればこう返すのが月並みである。
「まずはそっちから名乗れ」
「……ふ、不審者には簡単に名前を言ってはならないと習っているので」
「何故このタイミングで怖じ気づく?さてはビビりか」
「び、ビビりじゃないもん!!」
「チキンだもん!」
「チキンでもなーい!!」
必死の抵抗を見せる少女に、思わず太一の顔もほころんだ。
こういう時の子供とはなかなか素晴らしい存在だと彼は前々から思っている。
仲が良くないどころか赤の他人の自分とでさえ一瞬で打ち解けてくれるからだ。
そこに『イジりやすいから』という不順な理由もあると言えばあるが、あくまでそれは二の次の話だ。
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