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『桧子がどう思おうが構わないけどただね』
「ただ?」
『君が思ってるほど期待通りの結果は生まれそうにないよ』
他方ミサは「まぁ」と間を開けてから一言。
「俺は歌を歌うだけだ」
言ってロビーの公衆電話を切った。外はすっかり日が落ちて暗闇を纏っている。
リンリン、コロロ…季節はずれの虫の声はまるで歌でも歌っているようだ。
いつもの服ではなく浴衣姿のミサは開け放しの扉から外を眺めていた。
街灯一つない自然の姿。
思い出されるのは沢山の人たちの死。
そしてこれから召されるであろう常盤沢江。
「期待はしてないけど、潟滝君には頑張って欲しいね……あれ?」
言いながら思い出す。『しまった。テントと釣り竿を届けるのを忘れていた』と。
「ちっ、面倒臭いな…」
とは言え、彼は桧子に無理やり連れてこさせられた身。
電車が一日一本のこの小鳥遊川という地では帰りたくても帰れないだろう。
「……はぁ」
ため息混じりにミサはゆっくり外に出た。
レンタル用のアウトドアグッズは玄関を出た所の倉庫にしまってある。
「…で、それを取って君に渡しに行こうと思ったんだよ」
「い、今頃!?」
「俺としてはこんな所で丸くなって寝ている君の方も珍しいもんだと思うんだがね」
太一はその倉庫のドア付近でうずくまっていた。中に入るに入れないため、苦肉の策だろう。
発見→会話の流れはかなりスムーズだった。
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