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「ミサ君ミサ君!!それが森から決死の脱出に成功した人間にかける言葉か!?」
「決死ってまた大袈裟な…って何だ?その手は…」
呆れ顔のミサに対し、太一は何かを訴えるように必死で元いた森を指差した。
「森が何だい?」
「違うもっと手前だ」
「手前?」
どうやら太一は森と駐車場の境界付近に立てられた看板を指さしているらしい。
ああ、なるほど…とミサは合点する。
「な!思い切り『熊注意』書かれてますよ!?」
「…良かったじゃないか。人気少年漫画並みの山籠もり修行ができるよ。
波動球なり二重の極みなり会得したら後で見せてくれ」
太一は半ば本気で言っているミサに対し「まだそんな軽口が出るのか!!」とがなった。
「だいたい山籠もり修行なんざキャラ付けの手っ取り早い手段でしかねーし。それに……って何だよ?」
疑問符に伴って怒りのボルテージは沈静化していく。
それはミサが彼をじっと遠くを見据えるような目で見てきたからだ。
太一はこの目、雰囲気を知っている。それは先生や両親がまじめな話をしようとする時のそれだ。
どこか大人びた感じの、しかしその幼い少年の相貌には如何せん不釣り合いな雰囲気。
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