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「君はホスピタルクラウンってのを知ってるかい?」
“ホスピタルクラウン”
難病に苦しみいつ終わるやも知れない人生を生きている子供達の前で芸をする“病院のピエロ”のことだ。
『笑顔を忘れた子供達に笑顔を』
そんな思いで始まったそれは今や全国に波及している。
太一は以前それをテレビで見たことがあったのを思い出した。
「少しだけな。で…あぁ、何となく合点がいったぜ。難病の子供達(死ぬ人達)に芸(ライブ)を見せて喜ばせる。そんな所だろ?」
「察しが良いね。またいちいち説明しなきゃならないかと思ったのに--」
ゴンっと大きな音が夜の森に木霊した。太一がミサの胸ぐらを掴んで倉庫の壁に押しつけたからだ。
「ッ!!…何だい?合点がいったんだろ?」
「いったぜ。お前はやっぱ嫌な奴だってことにな!!」
太一の腕に更に力が込められる。
「どうせアレだろ?死ぬ前に良い目見てから死ねってやつ。それでテメーは良い人面して目の前の死から救ってやろうともしない!過去に何があったかは知らねーがそういうのを偽善って言うんだよクソヤロー!!」
太一はもう一度ミサを壁に押しつける。
しかしミサは苦悶の表情を浮かべることなく淡々と言い放った。
「…じゃあそれでいいよ。俺は君が言うところの偽善者だ。だから何だ?」
「なっ!?」と短く息を吐きながら、太一の腕から力が抜けていった。
驚き呆れて声も出ないといった感じに。
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