112人が本棚に入れています
本棚に追加
それにしても、将来の夢がたくさんある…か。
太一は何となく優奈の前向きさと素直さの片鱗を見た気がした。
その中身がどれほど支離滅裂、荒唐無稽、自家撞着でも全てが無邪気で済まされるのが子供の特権だ。
そしてそれが少なからず明日を生きる活力になるとすれば、果たしてこの常盤優奈という少女はどれほど充実した学校生活を送れることだろう。
「……学者かな」
「へ?何が?」
「いや、昔の夢だ。理科のテストでクラスで1人だけ満点取ってさ。それがすげー嬉しくて」
あの頃は何でもできるって信じてた。…そう言わなかったのは目の前の少女への気遣いだ。
「じゃあ今は?」
「やっぱそう来るよな…ま、今は自分探し中かな」
もっとも、その手掛かりもちょうど昨日消え去ったのだが。
「え~、それじゃ駄目だよ。お母さんいつも言ってるよ。夢はたくさん持ちなさいって!」
「そんなん知らねーけど……」
太一の語尾が曇ったのは昨日の話を思い出したからだ。
今週末には常盤沢江という女性が死ぬという話を。
優奈はここには母と二人だけで来たと言っていたから、確実に常盤沢江とは彼女の母を指している。
最初のコメントを投稿しよう!