三章:夏叶[誓いの夜]

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「よし、復活」 「大丈夫?」 「当たり前だろ! じゃあ、翠に会わせてあげる」 ついて来な、そう言って、さえちゃんはおれの前をすたすたと歩き始めた。 タチアオイを生けた花瓶を、大切そうに胸に抱きながら。 「結衣と明里は?」 おれが訊くと、ううん、とさえちゃんは首を振った。 ほとんど、おれと入れ替わりの状態で、2人はついさっき帰って行ったらしかった。 病室の前まで来た時、さえちゃんが振り向いた。 そして、ひそひそと小声で言った。 「朝方、意識が戻ったばっかなんだけどさ。けっこう元気なのよね」 つられて、おれも小声になってしまう。 「そんな驚異的に回復するもんなの?」 「さあ……けど、先生が個室なら大丈夫だろうって。翠は普通じゃないからさ」 そう言いながら、さえちゃんはクスクスと楽しそうに笑った。 「起き上がるのは、まだ無理かな。さすがの翠でも」 「分かった。無理させないようにするよ」 おれも、静かに笑った。 「翠、具合どう? 変わりない?」 そう言いながら、さえちゃんが先に病室に入った。 おれも、あとに続く。 6畳くらいの窮屈な個室には、監視カメラがとりつけてあった。 西の窓ががらりと全開に開け放たれていた。 西陽が淡い淡い朱色になって、病室をまんべんなく優しい雰囲気にしている。 ベッドの回りを囲むようにクリーム色のカーテンが引かれていて、ふわふわと裾が揺れていた。 きらびやかなハープの音色のようにカーテンが揺れる。 西陽色のオーロラのようだった。 このオーロラのすぐ向こうに翠が居るのだと思うと、少し緊張した。
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