三章:夏叶[誓いの夜]

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「響ちゃん、すごいよ! 決勝進出、おめでとう。それと、来てくれてありがとう」 「ありがとう、さえちゃん」 「うんうん。立派、立派」 ちょっと待ってね、とさえちゃんは言い、急いで花瓶の水を取り替えた。 「これだけ暑いと、花もすーぐ萎れちゃってさ」 「さえちゃん」 「えー?」 「これ、その花瓶に生けてよ」 さえちゃんの顔の前にタチアオイをそっと差し出すと、さえちゃんの手から花瓶が滑り落ちた。 「タチアオイ……?」 「さえちゃん、知ってたんだ。タチアオイ」 さすが女だよなあ、なんて思う。 感心しているおれの横で、さえちゃんが口元を押さえて涙ぐんだ。 「さえちゃん?」 おれの顔を潤んだ瞳で見つめながら、さえちゃんは震える声でつぶやいた。 「……たっちゃん」 まるで、おれの後ろに別の誰かを見ているような、遠い目をさえちゃんはしていた。 たっちゃん。 それは、さえちゃんの旦那さんで、翠の父さんの名前だった。 吉田達明(よしだ たつあき)。 だから、たっちゃん。 「ありがとう、響ちゃん。すごくきれい」 花瓶にタチアオイを1本ずつ生けながら、さえちゃんはとても懐かしそうな口振りで話し始めた。 「タチアオイ、かあ。いつだったかなあ……もう、忘れちゃいそ」
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