☆最悪かつ最高なアイツ

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 朝のホームルームが終わると同時に、教室には無軌道に会話が飛び交う。  この頃はまだ同じ中学上がりの人間が輪を作るのがほとんど。  中には積極的に輪を拡げようとしている人もいるけれど、やっぱりどこかお互いによそよそしいというか、見えない壁のようなものを感じる。  高校1年の一種独特な雰囲気なのかもしれない。  かくいうわたしも似たようなもので、幸いに同じクラスになった八重ちゃんと話をするのが朝の日課だった。 「ねぇ紗智ちゃん、今日の放課後って予定は?」 「部室よってから叔父さんのところに行くつもりだよ」 「ピアニッシモ?」 「うん」  部活は中学から同じで美術部に入った。  お世辞にも絵に自信があるわけじゃないけれど、あの陽溜まりのような空気が昔から好き。  それにカンバスに向かっているときの、世界が目の前の1点だけに収縮していく感じも好きなのだ。  それに上下関係もあまりないしね。  今日は部活が休みの日だけれど、ちょっと用事がある。 「そっかぁ。ね、私もピアニッシモについていっていい?」 「もちろん。また新しいレシピ教えてもらうの?」 「うん」  八重ちゃんは料理研究部。  家が夫婦共働きの彼女は昔から家事をするのが好きで、特に料理が好き。  今はお菓子作りにハマってるらしい。 「叔父さんところのデザートって絶品だもんねぇ」  父の弟である叔父さんは『ピアニッシモ』という喫茶店を経営していて、小さい頃からふたりでよく遊びにいっていた。  みんな気さくで、わたしにとってはもうひとつの家のような存在。  実は部室への用事もここが関係してるのだ。
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