☆最悪かつ最高なアイツ

11/45
前へ
/222ページ
次へ
「失礼しま~す」  美術準備室に足を踏み入れた瞬間、油絵の具独特の樹脂を煮詰めた薫りが身体を包み込む。  その部屋の奥。  窓際にしつらえた木製の机に、顧問の宮脇先生はいた。 「あぁ、日下(くさか)くんですか。おや、芦屋(あしや)さんも、いらっしゃい」 「こんにちは、先生」 「おじゃましま~す」  栗色の髪にノンフレームのメガネをかけた先生は紳士然とした大人。 “男性”という言葉がとても良く似合うとわたしはいつも思う。 「あの、先生。例の件なんですけど……」 「あぁ、叔父さんのところでアルバイトをしたいという件ですね?」  にっこりと微笑みながら問い返す先生。  普段亮平という悪い男の例を目の当たりにしているせいか、その仕草ひとつでちょっとドキドキしてしまう。  残念ながら奥さんがいるらしいけれども。  少しはアイツにも見習って欲しいものだ。 「はい。どうでしたか?」
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加