415人が本棚に入れています
本棚に追加
「大河。明日の夜、時間空けといてくれ」
「………」
「明日は記念日だったな。すまない」
やっとこっちを向いてくれた大河に、誠意を込めて頭を下げる。
自分のみっともなさに反吐を吐きたくなるが、卑下するより先に謝らなくてはいけない。
自分を憐れんだところで、結局は何も変われはしないのだ。
それを良く知っていたからこそ、頭を下げた。
「…いいわよ。顔をあげなさい」
冷たく大河は言って、竜児の真正面。視線がぶつかりあう。
「あんたが何を考えてるかしらないけど、そう言うなら空けてくわ」
「………ありがとう」
お互いに見つめ合ったまま、微動だにしない。
テレビの漫才が聞こえてくる。インコちゃんの寝息(いびきともいう)が聞こえてくる。
周りからは、音が耳から伝わってくる。映像が、目から伝わってくる。
でも心は目でも耳でも、触れたってわからない。
じゃあどうしたら心はわかるのか。
それを探るように、竜児は大河を見る。大河は竜児を見る。
たぶん、形でも五感をフルに駆使しても、わからないだろう。
でも通じ合える。そんな証拠はないが、竜児はそれだけは言い切れる自信があった。
最初のコメントを投稿しよう!