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面会謝絶のプレートがかかった部屋の前。
大河と泰子は、ずっと黙ったまま座り続けていた。
事故から3日たち、竜児の意識はまだ戻らないまま。
隔離された病室の中は、どうなっているのかわからない。
5分前に入って行った医師が、病室から出てきた。
「吉報です。患者さんの意識が戻りました」
「え?」
「ほんとに…?」
無意識に立上がり、2人で医師に詰め寄る。
医師はカルテを確認しながら、2人に告げる。
「脳波も落ち着き、とりあえず峠は超えました」
カルテから顔をあげ、一瞬苦しそうに顔をしかめる。
「ですが…」
ですが…何だろうか。2人は涙をこらえながら、医師の言葉の続きを待った。
そして、医師の言葉は2人の予想を遥かに超えた、受け入れがたい事実だった。
「彼は…記憶喪失の可能性…というより、完全に記憶が無くなっています」
「………!」
「ふぇ…!?」
思わず声が漏れたのは泰子、息を飲み込んだのは大河。
「竜…ちゃん…?」
「入室する際は、看護婦の指示にしたがってください」
それだけ告げると、医師は去って行った。
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