七方美人

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桜の蕾が膨らみを見せ始めた、弥生の頃。 朝の空気は、まだ冷たくて。 「柏倉さん、おはよう!」 耳が遠かったのか。 いつものが、違和感のある挨拶に聞こえた。 「…………………ども」 頬をほんのり朱色に染めて、副会長は私に笑いかけた。 ────おかしい。 「今日、新年度の役員発表なんだ」 「…………へぇ」 結局、今年度の生徒会長すらまともに見なかった私には、縁遠いどころか無関係な話だ。 流されるままに遣り過ごした学校行事。 色々あった気がしたが、駄目だ。 何一つ思い出にない。 「楽しみにしててよ」 ………それ、どういう意味? 心底楽しそうな……愉しそうな副会長。 今副会長ってことは、次期生徒会長なのか? ……別にあんたが指揮を執ろうと、全く興味ないけど。 向けられた、その、笑顔。 ────鳥肌、鳥肌が。 .
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