『あ』→愛の言葉

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『あ』→愛の言葉

   『愛してる』という、白画面に乗った機械文字ならば、何度も何度も目にしてた。 その文字が見える度に、胸が高鳴る私を見て、何度友達が笑ったか。何度、鼻先で笑い飛ばしたか、解らない。 数え切れない『愛してる』の機械文字は、いつの間にか、一つの習慣になってしまっている。いつの間にか、軽い言葉となり、白画面の上を行ったり来たり。   『愛してる』だなんて。 白画面の上だけの、いや機械の中だけの『愛してる』だなんて、口先だけよりも、超軽い。軽い? いや、薄っぺらくて、胸をときめかせていたはずなのに、今は、白画面の中の一欠けら。 友達に言えば、私を再び笑い飛ばしたけれど、今度は彼女の彼氏が白画面で『好き』『大好き』を使いだす。 私だって負けじと笑い飛ばしたのに、彼女曰く、『愛してる』よりマシだと言い張った。『好き』より『愛してる』の方が重たいはずのソレを、何度も使ってしまうより、マシなのだ、と。 『愛してる』を画面上で連発していた彼氏とは別れたが、友達は『好き』と連発していた彼氏と結婚してしまった。 本当に、白画面上だけの『愛してる』は『好き』よりも、真実味が薄いのだろうと、改めて確信し、彼女の結婚式場後にする。 履き慣れないハイヒールを手に、運動靴を履き変えた淡いピンクのドレス姿の私が、街中のショーウインドーに写る。情けない姿に苦笑いしか出てこない。 巻き上げた髪の毛も、頑張って痩せた自分の体型も、ピンクのドレスには似合ってたけど、友達の結婚式の為だったなんて。 出来るのならば、彼氏に見てほしかった。出来るのならば、彼氏の為だけに、綺麗になりたかった。友達の為が嫌だったんじゃない、友達の為だけなのが、嫌になる。 落ち込む自分を写すショーウインドーの電気が落ちて、私の姿にも暗くさせる。ショーウインドーでさえ、私に追い撃ちをかけるのかと自嘲しながら、歩きだす。 都会の真ん中から、夜空を見上げたとて星は一つも見えやしない。 けれど、泣きそうな涙を止めるには調度よかったんだ。 落ちそうな涙は、溜めておく事ができなくて、ポロリと頬を伝っていく。 画面上だけの『愛してる』は口先だけの『愛してる』より、すごく軽い。 恋は、人を馬鹿にする。 わかっている事でさえ、わからなくするのだから。 .
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