プロローグ

2/2
前へ
/2ページ
次へ
――ひらひら、ひらひら。 桜の花びらが舞い踊る通学路を、黒い学生服に身を包んだ雨水岬が歩く。 中肉中背の彼にこれといった特徴はない。 強いて言うなら、学校祭の女装コンテストで優勝した実力を持つ女顔と、長い髪の毛だろうか。 「…ちょっと早く着きすぎたかな?」 公園にある奇妙なオブジェの前で立ち止まり、右腕に巻いた古びた腕時計を眺め眉を潜めた。時計の針は、七時五十分を指している。 いつも一緒に登校している腐れ縁の幼なじみ二人は、だいたい八時頃にこの待ち合わせ場所である公園に来るのだ。 「まぁ…いいか」 上を見上げると、雲ひとつない快晴の空。 そんな清々しい空をぼんやり眺め、時間を潰すのも悪くないかな……と岬は思う。 よっこらせ、とオブジェに腰を掛ける。 岬の髪を揺らす春の風は、制服越しからでも十分寒い。 「…欲を言うなら、熱いお茶をすすりながら眺めたかったな。あと、せんべいがあれば完璧」 「おいおい、いつからおっさんになったんだよ岬ー?」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加