夕焼けロマンチスト

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前の方で、影が何かを言っている。距離があるため、気をつけないと聞こえなくなってしまう。 「帰ろう。早く帰ろうよ」 帰り道は、夕焼けに染まっていた。よく人はこれをオレンジ色だと言うが、鈴木にはどうしても夕焼け色にしか見えなかった。彼は目を細めたり、見る角度を変えてみたりする。しかし、夕焼けは夕焼けに違いなかった。諦めて、手を振る影に視線を向ける。近づくと、影は女性になる。さらに夕陽に歩み寄ると、女性は彼女になった。 「早く!もっと速くしないと!」 彼女は今日も忙しい。騒がしくなる前に、と鈴木は慌てて弁明した。ごめんよ、じゃあ、行こうか。 「もっちろん!」 いつもより上機嫌だな、鈴木はそう考えながら、彼女の右隣を歩く。彼女はひとりで、何かを話している。夕焼け色の都会的な道の奥では、小さな子供が掴み合いのけんかをしている。道の両脇を埋めるように続く家の壁からは、やかましい音楽が響いている。空を見てもそこには、愉快な雲の一つも無い。鈴木は歩きながら、顔をゆがめた。彼女はまだ、何かを話していた。
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