序章

2/11
前へ
/379ページ
次へ
 同時刻、月面上空にて。  「それでは始めてくれ」  新世界連合軍所属の宇宙艦。  艦橋の通信席前に取り付いた艦長は、着ぐるみみたいなゴテゴテした宇宙服のヘルメットを背に回し、マイクに向かって言った。  年齢は三十代半ばと言ったところだろうか。  オールバックの髪型が似合う、背の高い若い艦長だ。  その艦長の言葉に、通話モニターの相手は細く鋭い瞳を更に一段細めて、不満そうに口を動かす。  女性的で端正な顔立ちだが、右目の辺りの古傷が厳めしくもあった。  「なんでオレ一人なんだ。探すのはあんたの部下だろ?」  細身の宇宙服を着た、顔に傷痕のあるその男はヘルメットのシールドを下げた。  艦長は顔をしかめる。  「単独任務における君達の優秀さは理解している。だからわざわざ出張ってもらった。こちらから、いたずらに戦力は出せない」  「身内は死なせられないが、他人なら構わねーってワケだ」  「無謀な仕事を請け負うのも君らの仕事だろう。そこから生還する事を含めてな。違うかね、ソードブレイカー?」  「今はファントムソードだ。間違えないでくれ」  男の無愛想な態度に頭を振った艦長は、後ろを振り向いた。  艦長と同じ宇宙服を着た若い女性が微笑んで立っている。  ヘルメットで髪型は分からないが、真面目そうな目をした穏やかそうな美しい女性だ。  艦長が目で合図すると、彼女は真面目そうな瞳を微かに曇らせ苦笑した。  「彼は手が掛かるんです」  そう言って女性が位置を入れ替わると、艦長は溜め息をつく。  「そのようだな。後は任せる」  艦長席へと流れて行った艦長に苦笑混じりに敬礼を送った彼女は、通信モニターを見てからマイクへと向き直る。  「こちらセイレーン。ご機嫌ナナメね、ソード」  「安心してくれ、半分はポーズだ」  ソードと呼ばれた男は薄く笑ってセイレーンに答えた。
/379ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加