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同時刻、月面上空にて。
「それでは始めてくれ」
新世界連合軍所属の宇宙艦。
艦橋の通信席前に取り付いた艦長は、着ぐるみみたいなゴテゴテした宇宙服のヘルメットを背に回し、マイクに向かって言った。
年齢は三十代半ばと言ったところだろうか。
オールバックの髪型が似合う、背の高い若い艦長だ。
その艦長の言葉に、通話モニターの相手は細く鋭い瞳を更に一段細めて、不満そうに口を動かす。
女性的で端正な顔立ちだが、右目の辺りの古傷が厳めしくもあった。
「なんでオレ一人なんだ。探すのはあんたの部下だろ?」
細身の宇宙服を着た、顔に傷痕のあるその男はヘルメットのシールドを下げた。
艦長は顔をしかめる。
「単独任務における君達の優秀さは理解している。だからわざわざ出張ってもらった。こちらから、いたずらに戦力は出せない」
「身内は死なせられないが、他人なら構わねーってワケだ」
「無謀な仕事を請け負うのも君らの仕事だろう。そこから生還する事を含めてな。違うかね、ソードブレイカー?」
「今はファントムソードだ。間違えないでくれ」
男の無愛想な態度に頭を振った艦長は、後ろを振り向いた。
艦長と同じ宇宙服を着た若い女性が微笑んで立っている。
ヘルメットで髪型は分からないが、真面目そうな目をした穏やかそうな美しい女性だ。
艦長が目で合図すると、彼女は真面目そうな瞳を微かに曇らせ苦笑した。
「彼は手が掛かるんです」
そう言って女性が位置を入れ替わると、艦長は溜め息をつく。
「そのようだな。後は任せる」
艦長席へと流れて行った艦長に苦笑混じりに敬礼を送った彼女は、通信モニターを見てからマイクへと向き直る。
「こちらセイレーン。ご機嫌ナナメね、ソード」
「安心してくれ、半分はポーズだ」
ソードと呼ばれた男は薄く笑ってセイレーンに答えた。
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