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序章
そこは研究室といったところだろうか。
広い室内の中央に何らかの測定器機類が陣取り、その周囲に並べられたいくつかの机の上にパソコンやらモニター類やらが並んでいる。
一台のパソコンの前に、ずいぶんと大きな白衣を着た小柄な男性が座っていた。
大きな丸いレンズのメガネにモニターからの光を映した彼は、サイズの合わない白衣の長い袖から僅かに指を出し、モニターを見つめたままキーボードの上を素早く走らせている。
と、そこに別な男性がやってきた。
「どうにも出力に対するフレームの耐久性が想定を下回っているのですが……」
困ったように報告した男性に、小柄な男は手を止めて顔を向けた。
「おかしいなぁ……どこか間違えてない?」
小男は体を仰け反らせるように大きく首を傾げる。
「はぁ。ですがアンジェラのデータから計算してますから、間違いは……」
そう応じる男性にメガネの男はレンズ越しに視線を送る。
少し機嫌が悪そうだ。
「……誰の指示?」
「上司からです」
「おっかしいんだなぁ……」
メガネの男は首を振ってモニターに向き直った。
「責任者は僕。それより上がいるの? 僕は今朝届いた試料を使ってねって言っておいたのに」
男性は黙って下を向いた。
「ま、君を責めても仕方ないよね。試料でデータ取り直して。それから、ジェネレーター出力に対する機動効率のシミュレーションもよろしくね」
「分かりました」
メガネの男性がひらひら手を振ると、相手はのそのそ歩いて行った。
「やれやれ……これじゃいつ仕上がるか……早くソードに届けなきゃならないのに」
モニターのワイヤーフレームを一瞥して彼は溜め息をついた。
人型機動兵器の3D図面。
大小四本の角を持つ、二つ眼のアサルトガンナー。
【XPS-05MN ムーンナイト】
その画面を改めて眺めた彼、カワナミ・スグル、別名メガネは苦笑いした。
「彼なら大丈夫だとは思うけど」
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