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「もうすぐ成人なんだから、その格好やめたら?」
この国では、十二歳から成人と見なされる。 そして、成人となる『証』を手にしなくてはならない。 それがこの国の規則だ。
「……成人か」
クリスは、ため息をついて続けて、自分の姿を見てこういった。
「この格好は、何かと安全なの。 それに、これ意外に動きやすいんだよね」
アーミー柄の長ズボンに、ふくらはぎまである黒のブーツを履き。 上は汚れた草色のTシャツに黒いベストを着て、頭には鍔(つば)付きの黒いキャップを深くかぶっている。
「安全っていうか余計に危ないように見える。 クリスのお母さんが見たら悲しむよ」
クリスは小さく吐き捨てた。
「オレを捨てた女なんざ、母親だなんて思ってない。 悲しまれても困る」
「捨てたって……。 まだわかんないじゃん」
「ガッくん……ガクには、お母さんっているの?」
ガクは、急に手を止めて、クリスを見上げた。
「いたよ。 でも……もう忘れた。 それにたぶん、もう会えないし」
一瞬、ガクとクリスの間に沈黙が流れて。
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