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「子供が親に気を遣うもんじゃないぞ」
父さんの言葉に少し気が楽になった俺はお言葉に甘えてカップ麺を作ろうとやかんを手に取った。
カップ麺ができると俺達は特に会話もせずにひたすら食べた。
母さんが死んでいなければ、例え俺と父さんだけでご飯を食べていてももう少し喋っただろうと思う。
俺と父さんは別に仲が悪いわけでもない。
むしろ毎日残業しているのに野球を続けさせてくれていることやいろいろな面で感謝している。
よくドラマやアニメとかで見る、親がうざい、という感情もよくわからない。
父さんの話は別段面白くないが、めったにおしゃべりする人ではない。
今日にいたるまで、父さんといて居心地が悪いと感じたことがあまりない。
しかし、いつからだろう。
いやわかっている……。
母さんが死んだときから父さんはあまり笑わなくなった。
暗い訳じゃない。様子がおかしいわけでもない。ただ何かが欠けてしまった。
父さんの中の、大切な何かが。
そんな気がする。
静かに食べ終わると、俺は風呂掃除に向かった。
「おう、悪いな」
父さんが声をかけてきた。
「いいって。飯作り忘れたんだからこれくらいはやるよ」
「そうか、じゃあ頼んだ。ざっとでいいからな」
「わかった」
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