226人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は入学前に切って、最近ちょっと伸びてきたボウズ・ヘアーをかきながら語の後を歩いていた。
周りの奴らには常々言っているが、ボウズだって立派なヘアースタイルだ。
俺は認めない。単なる手抜きだなんて認めないぞ。
階段を降りながら、俺はぼんやりと自省していた。
大木先生には一年生の分際で五月病、と言われたが、俺自身心境の変化があるとは思っていない。
何か目標や熱意をもってこの高校に来たわけでもない。
大多数の生徒がそうであるように、自分の人生について明確な見通しがあるわけでもなく、とりあえずリスクが少なそうな、高校進学という方向に向かって踏み出してみただけに過ぎない。
だから別に、部活に打ち込むのも、興味のない授業にイマイチ身が入らないのも、普通だ。
それにこれは絶対に誰にも言わないが、何事にもやる気満々の少年漫画の主人公よりは、クールで無気力、でもやるときはやるタイプのライバルキャラの方が断然イケている。
俺はこっそり自分の中の理想像を確認し、すぐにふたをした。
俺は不満も喜びも今現在は特に感じていない、至って普通の16歳の高校生だ。
そこまで毎日がオモシロオカシイ訳じゃないけど、何とかやっている。
売店の手前ですれ違った女子学生の話が耳に入った。
「っとに、うちのママは毎朝毎朝さ……」
毎朝自分の母親に会える事がどんなに幸せなことか、彼女は失ってから気づくのだろう。
俺はクールで無気力な自分の仮面の下で舌打ちしたくなる衝動に駆られていた。
こういうの、面倒くさいな。
いちいち心がざわつくなんて、ダサいことだ。
あの事故から五年とちょっと。
俺が母さんを失ってから五年とちょっと。
最初のコメントを投稿しよう!