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夜のネオン街を走り抜けるのは、異質な存在感を放つ真っ赤なアルファ・ロメオ。流れる外の景色、静かな曲調の音楽に包まれた車内。
すっかり慣れてしまった高級感溢れるシートに背を預ける俺の横には、恋人である沓哉が座り運転する。
いつもなら他愛のない話でもするのだが、今日の車内はどこか不穏な空気が漂っていて、とてもじゃないが口を開けそうにない。
常に笑みを浮かべている沓哉の姿は何処にもなく、眉間に皺を寄せ不機嫌さをあらわにしていた。
理由の心当たりはもちろんある。
『え?バーテンダーのバイト?』
『うーん、正直行きたくないんだけど昔お世話になった人からの頼みでね。断れなくって』
眉尻を下げる沓哉を前に、俺はバーテン姿の彼を思い浮かべる。あまり想像がつかない。
『…あの、俺も連れてってくれませんか?沓哉のバーテン姿見てみたいなぁなんて…』
興味が惹かれそう口にした。最初はよっぽど連れて行きたくなかったのか、頑なに断っていた沓哉だけれどおねだりを続けると渋々承諾してくれた。
目的地が近づくに連れ沓哉の横顔が険しくなっていく。
「………」
そんなに連れて行きたくないのかな…
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