序章

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「どこだよ、ここは」 真夜中の暗い森に1人の少年が紛れ込んでいた。疎らに生えている辺りの木々は全てが枯れ果てている。風はなく、ジメッとした空気が漂っている。空にはただ一つ、紅い光を放つ月に似た星がうかんでいる。 知らない世界に少年は入っていた。年は17、8くらいだろうか。銀色の髪に赤みがかかった茶色の瞳。まだ少し幼さが残る端正な顔つきの少年は、おおよそこの場に似合わない風貌である。 「どうすりゃいいんだよ」 夢か、とも思ったがこの肌に纏わり付く様な嫌な空気は夢とは思えない奇妙な感じがある。 なにもしないよりは何かした方がまだマシだ、という主義の少年はとりあえずの行動指標として、遥か遠くに見える城の様なシルエットに向かって歩き始める。少年の耳には枯れた枝を踏むパキパキという音だけが聞こえていた。 しばらく歩き、体力的にも精神的にも辛くなってきた少年は一本の樹に寄りかかって座り込む。相変わらず城は遥か遠くにあり、近づいているのかさえ分からない。 グウゥァァァァ 不意に右方向から唸り声が聞こえて来た。剣の腕には多少の自信があるが、今は武器を持っていないし、魔法はあまり得意ではない。しょうがないか、と呟いた少年は敵を確認するために音のした方向を見る。そして固まった。 そこにいたのは、いや、あったのは土の塊だった。土の塊が人型になり、おそらく顔と思われる部分が横に割れ、そこから音が出ていた。目や鼻と思われる部分はないが、顔の横は窪みおそらく音を感知する為のものだろうと思われる。
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