序章

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それは天使としか形容できなかった。スラリと腰の辺りまで伸びる銀色の髪。それと同色の瞳、中性的な顔つき。なによりもその背中から生える神秘的な光を放つ12の翼。 その「天使」はただ一言、何かを囁いた。それだけだった。それだけで少年を圧倒していた土の塊は敗北した。「天使」が押さえていた拳からボロボロと土が崩れ落ちていく。 完全に崩れるまで見送ると「天使」は少年の方に振り向いた。銀色の双眸が少年を捉える。 「お前の名は何だ」 抑揚のない、しかし透き通る様な声が静かな森に響く。 「カイム、カイム=ノーランドです」 少年、いやカイムが自分の意思で言ったと言うよりは、勝手に口が動いたといった感じだった。 「あなたは何者ですか?」 カイムは自分が抱いていた疑問の中でも、一番のものを聞いた。 「私は元大天使長、そして今は」 バキン、と割れるような音をたてて、「天使」の羽の根元から色が変わっていく。神秘的な白銀から、全てを呑み込みそうな漆黒へと。 「そして今は、堕ちた天使、悪魔の王。 堕天使ルシファー、と言われている」
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