私に足りなかったもの

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今日で絵の仕上げだと言うから、私はバッグに包丁を入れていった。 殺すことは決めていたけど、完成した自分の絵は見たいものでしょう? 完成した絵は残念だったわ。 湖を背景に小太りの女が絵の中からこちらをじっと見ていた。 私、もっとあなたに微笑みかけてたはずよ。 なぁんだ、つまんない絵、と思って、包丁でリツの背中を切りつけたわ。 この程度の絵だったらもっと早くに殺しとけばよかった。 そんなことを思ったけど、これでようやくリツから吹っ切れて、まともな人間関係を築いていくきっかけができた。 リツのお陰で今なら誰とでも話せそうな気さえしてきたの。 さようなら、リツ。 あなたという幻といれてとても幸せだった。 私、これから頑張るわ。 私に足りなかったもの、それは打ち解けようとする力だったのね。 そう言い残して湖を後にした。 ただね、先生、このワンピースの血痕、全然落ちないのよ。 父のはすぐ落ちたのに。 どうしてかしら?
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