私に足りなかったもの

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慌てて玄関を出ると、リツがいたの。 道路から驚いたように私を見ていた。 私もびっくりして、どうしてこんなところにいるのって聞いたら、私の絵を描くからいつもより多めの絵の具や機材を持ってこうとして家をでるのが遅くなったのだと言う。 自分から頼んどいて私を待たせるのは申し訳ないから、近道をしようとしてたまたま通ったら、ちょうど私が出てきて驚いていたのだと。 でも私はリツの態度にすぐに違和感を感じた。 よそよそしく素っ気ない。 終いには家族の話を聞いてきたりするのよ。 リツはひょっとして、父を殺すところを窓から見たのかもしれない。 悲鳴を聞いてしまったのかも。 どちらにせよ、見られてしまったことはどうでもよかった。 だって相手は幻覚ですからね。 私以外には見えないのだから、警察に通報されることもないし。 ただ重要だったのはそれ以来、私に対する態度が変わってしまったこと。 彼は以前のように私の前で無邪気に笑うことはなくなった。 彼はもう違う。 私の理想のリツじゃない。
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