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東風谷早苗は特別な存在ではない。というのも、それは幻想郷においての話であり、現実世界──つまり、僕がもといた世界において、彼女は異端中の異端であった。
異端──それはある意味、幻想郷への片道切符とも言えるだろう。
常識が非常識に。
非常識が常識に。
幻想郷はそういう世界である。
だからこそ、彼女はこの世界において現人神という立ち位置を獲得できたのだと言えよう。
常識は非常識に対して残酷だ。
正義が徹底的に悪を滅ぼそうとするように、彼女に初めて与えられた世界もまた彼女の居場所を奪おうとした。
それは、足場が徐々に崩れていくような名伏しがたい恐怖であったはずだ。
神の存在が科学に否定され、忘れられていくこともまた、同じである。
それからの物語は、まず、この段階で語る必要はないだろう。
当然のことが当然のように起きた結果が東風谷早苗である限り、僕が彼女のすべてを語る意味はそれほどないのだ。
なので、僕はあえて、目を閉じ、口を締め、耳を塞ぐことにする。
彼女は恐らく、僕以上に失敗した人間だから。
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