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「ふぅーん。それがどうしたのよ、天然記念物」
新聞をヒラヒラと僕に見せつけながら、そう言ったのは、怪異の王、吸血鬼であるレミリア・スカーレットだ。
「それおかしいだろ!」
「ん? あーあー、そうね。UMAは天然記念物とは言いにくいか」
「そうじゃないそうじゃない!」
僕はだらんとレミリアの足が乗っかっているいかにも高そうな机を、思いきり叩いた。
「お前、全面協力してくれるって言っただろ!? 忍のこと!」
──まあ、そう言うわけだった。
今朝、いつもの通り、忍を迎えに博麗神社に向かおうとしたところ、小悪魔さんにあったのだ。
「あ、おはようございます、暦様」
「おはよう、小悪魔さん」
何気ない朝の挨拶。
昨日のトラウマ地獄の後では、この日常感が堪らなく心地よかった──のだが、
「むむー……」
と。
なんだか所在ない気持ちにさせる視線を、小悪魔さんは送ってきた。
「な、なに?」
「いえ、なにというかですね。一つ、伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ」
頷く。
どうせ取るに足らないような、素朴な疑問だろ、と緩慢に構える態度は、平和でありたいという願いからきた、ほんの少しの気の緩みだった。
まさか、小悪魔さんからあんなことを聞かれるとは思ってもいなかった。
「暦様……。いつまで紅魔館に居候なさるおつもりですか?」
「…………!」
「いえ、決して、ほんの少しも、これっぽっちも、一抹も、万に一も、一マイクロメートルも、暦様が邪魔だなーとか、いなくなればいいのにとか思っている訳じゃないんですよ?」
「…………!!」
「ですが……本当のことをもうしますと、暦様が寝泊まりに使っている部屋──あれ、私の部屋なんですよ」
「…………!?」
「紅魔館は元々部屋がたくさんあるにはあるのですが、レミリアお嬢様の趣味といいますか、私たちからすれば悪癖と言うべきなのでしょうけれど、好奇心旺盛のあまり珍品をあらゆる場所からかき集めるのがもはやライフワークとなっておりまして、数ある部屋もほとんどが物置として使われる始末。まともに生活できるスペースというのは本当に、ごく最低限しか存在しないのです……」
「…………」
突っ込み担当の僕。
無言のまま撤退。
タクティカルエスケープの後──フランドールを連れ、レミリアの部屋に殴り込んだのだ。
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