序章 <マエガキ>

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「だ、誰だ!!」 男は辺りを見回した。 しかし、周りには白い霧が立ち込め始めていて、視界がきかなくなってきた。 この季節ではまんざら珍しい事でもない。 しかし、男にとって不安はつのるばかりである。 既に生ゴミの匂いと火薬の匂い、更に血の匂いで嗅覚が完全にきかなくなっており、 その上、視覚さえも奪われかけていた。 先ほどの声は何者か。 さっき撃ち殺した男とは、明らかに違う。 奴の仲間か? なんだか、声が若かったが――。 男がいくら思考を巡らしても、行き着く宛てなど、見つからない。 そして、焦ってゆくばかりだった。 「オイオイオイ!! 誰だい? 俺のマグナムに撃ち抜かれたい奴は!」 男は愛銃を構えながら、声をあらげた。 「可哀想にな。防弾チョッキをも貫く銃で撃たれてな…… 辛かったな……」 しっとりとした、落ち着いた声が明らかに近くで聞こえた。 サングラスの男が先程撃ち殺した奴に目をやると、 なんと、声の主は死体のすぐ横に佇んでいた。 つまり、サングラスの男と 目と鼻の先ほどの距離に居たのだ。 最早、人型をしていない、かつての人間を憂(うれ)うかのような眼差しで眺めている。 赤い髪の青年、いや少年か 高校生ぐらいだろう。 彼の眼も燃えるような赤色だ。 黒いロングコートがやけに大人びて見える。 男はあまりの近さに一瞬たじろいだ が、 相手は高校生ではないか。 男は一瞬でもたじろいだ自分を恥じた。 「お前、何故ここにいる? ガキは出歩いちゃ駄目な時間のハズだが、ハハ……」 サングラスの男は、有無を言わさず、赤髪の少年のこめかみに例のマグナムをあてた。 「助けて欲しけりゃ、何も言わず立ち去れ! 俺はこの後、海外に飛ぶからよ!」 赤髪の少年が静かに死体の胸に手を当てた。 すると、血みどろの口から白い光が浮き上がる、ゆっくりと。 辺りがほんのりと明るくなった。 そして、光は彼らの頭上を何度か旋回すると、どこか安心したようにフッと消えた。 ほんの数秒の幻想的な世界に、サングラスの男は現実を忘れてしまいそうになった。 「……ッ! な、なんだよッ! さ、さっきのはよッ! て、てめぇは化け物かッッ!」  
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