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死神も不死身なんかではないし、血も通っている。
心臓に杭を刺されなくとも、普通に死ぬ。
ただ、その可能性が極端に低いだけだ。
アークは何処からか拾ってきた、古いラジオをつけた。
時折、電波の砂嵐が吹き荒れるラジオだが、彼自身あまり気にはしていない。
電波の嵐の向こうで、微かに声が聞こえる。
彼はラジオを引き寄せ、アンテナを伸ばす。
少しもクリアにならない音声に、アークは苦笑しながら音量を上げた。
アコースティックギターが奏でる繊細な音。
全てを包み込むような優しい声。
素朴で深みのある何か。
これが彼の日課の一つだ。なんでもない、ラジオから流れる音楽。綺麗な音。美しい旋律。
彼はいつも思っていた。
こんな綺麗な音で世界が溢れればよい、と。
こんな音だけを聞いて過ごしていたい、と。
彼が暫く聞き入っていると、一段と強いノイズが全てを打ち消した。
アークはハッと顔を上げ、現実の世界へと思考が戻る。
「遅刻だ……」
しかし、彼は動揺しなかった。
「……何も変わらない」
いくら今からどんなに急いだ所で、遅刻には変わりない。
シラを切れそうな言い訳も思いつかない。
そう、何も変わらない。
こうして、彼はゆっくりと学校へ行く準備を始めた。
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