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ドアを開けると、スーツ姿の男が立っていた。
「お待ちしておりました。秘書のササキと申します」
「局長様より依頼を受けて参りました。探偵のトオルです」
秘書のササキは、名刺を差し出してきた。デザインもシンプルな一般的なものだが、氏名の横には衛生局を示すバケツとモップを交差させたマークが入っている。
「ササキ様も幹部役員でありますか。なかなか大変な仕事ですね」
「いえいえ。なれてしまえば大丈夫ですよ。昨年の、ホームレス掃討業務から人間不信になる役員もいますが、すぐに忘れるものですから復帰も早いです。私は割り切ってますから問題はありません」
全く顔色変えず話す秘書の言葉は、まるで人事のようだった。
「しかし、人様に恨まれるような事はありませんでしたか。とてもクリーンなイメージとは程遠いように思うのですが」
トオルの皮肉な質問にも秘書は涼しい顔で答えた。
「質問の内容はよくわかりませんが、苦情はあります。稀に怒鳴りに来る方もおられますが、やっぱり衛生局機動隊員は優秀ですね。すぐお帰りになられますよ」
少し笑みをうかべながら話す秘書に、例えようのない不気味さを感じる。
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