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珠子の表情が暗いのは怪我をしたからじゃなくて、家にいる母親のせいだ。
俺を早退させたなんて母親が知ったら、怒ることなんて目に見えている。
もっと、お前を守ってやれたら……
そんな思いさせないのに。
あの家から珠子を引き離せたら……
「……なぁ、珠子。お前本当の母親に会いたいか?」
「え……」
驚いた顔をして、またすぐに俯く。
そして、首を横に振り顔を上げる。
「私はお兄ちゃんと同じ学校に通えてるだけで幸せよ。昔から、お兄ちゃんは私の傍に居てくれたでしょ。それがね、私にはすごく嬉しいの。お兄ちゃんが傍にいてくれるだけで、もう十分。それ以上、望まないよ。」
そう言って、珠子は優しく笑った。
ドクンッ
お前が俺に笑顔を向けるたび……俺はその笑顔を守りたいと思う。
けど、同時に汚したくもなるんだ。
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