恋去る

6/29
276人が本棚に入れています
本棚に追加
/982ページ
珠子の表情が暗いのは怪我をしたからじゃなくて、家にいる母親のせいだ。 俺を早退させたなんて母親が知ったら、怒ることなんて目に見えている。 もっと、お前を守ってやれたら…… そんな思いさせないのに。 あの家から珠子を引き離せたら…… 「……なぁ、珠子。お前本当の母親に会いたいか?」 「え……」 驚いた顔をして、またすぐに俯く。 そして、首を横に振り顔を上げる。 「私はお兄ちゃんと同じ学校に通えてるだけで幸せよ。昔から、お兄ちゃんは私の傍に居てくれたでしょ。それがね、私にはすごく嬉しいの。お兄ちゃんが傍にいてくれるだけで、もう十分。それ以上、望まないよ。」 そう言って、珠子は優しく笑った。 ドクンッ お前が俺に笑顔を向けるたび……俺はその笑顔を守りたいと思う。 けど、同時に汚したくもなるんだ。
/982ページ

最初のコメントを投稿しよう!