恋去る

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キュッ 階段に上靴の擦れる音が響く。 「珠子」 屋上へ上がる階段には、立ち入り禁止の注意書き、その奥にはチェーンが手すりから手すりへ繋がれている。 それを、跨いで階段を上ると屋上の扉の前に珠子がうずくまっていた。 「授業始まった。教室戻るぞ。」 うずくまる珠子の前に立ち声をかける。 鼻をすする音。 泣いてる。 「なんで、お前が泣くの?」 腰を落とし、珠子に近づく。 「私のせいで……お兄ちゃんは、いつも悪い人になるの。ヒドいこと平気でできちゃう。全部、私のためだって知ってるよ?」 ズッズッと鼻をすすりなが顔を上げた珠子は真っ赤な目に真っ赤な鼻。 「俺は……元々そういう人間なんだ。お前のためじゃない。」 本当に珠子以外どうなったっていいと思ってる。 どんな非道なことだって簡単にできる。
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