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土砂降りの雨の中に輝く白銀の発光体がある。
それは星の法則に反することなく、崖沿いの宙を滑るように落下していく。
瞬く光が幾重もの帯のように纏まった光の奔流となって、風に靡くように流動し、その先端が結晶体のように儚く散っていく様は、どんな芸術よりも芸術らしかった。
「……くそ。もたねェか」
漏れた声は胸を血で真っ赤に染める殺人鬼のものだ。
彼は胸の傷ではなく、自身の左目を手で庇うように押さえつけている。
彼を覆う白銀の光の奔流も、見れば、彼の押さえる左目から噴火するかのごとく溢れ出ていた。
「……うざってェ光だ。悪いが、抵抗はさせて貰う。俺を舐めんじゃねェぞ」
鬼は押さえている左目ではなく、健在の右目に空いた手を伸ばす。
それは軽く、一瞬触れるだけの簡単な所作。
だがそれは、彼にとって大きな意味のある行動だった。
――やがて彼の右目から飛び出すように虚空に描かれたのは漆黒の魔法陣。
雨に塗り潰された景色の中でも、その完全色は風景をしっかりと切り取った。
魔法陣は、包み込むようにして彼の身体に染み込んで行く。
左目から漏れる白銀の光が抵抗するかのようにその光量を増すが、黒はそれさえも容赦無く飲み込んでいく。
「今は……、これが精一杯か……」
呟きを最後に、両国を騒がせた殺人鬼は濁流へと消えて行った。
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