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雨の振る夜に。
「ハァ、ハァ…」
一人の青年がひたすら駆ける。
その身を薄汚いローブに包み、フードを被っている。
だから顔は見えない。
ローブは雨を存分に吸い、濡れて体にまとわりつく。
それがしょうがないくらいうざい。
「くそっ…」
とってしまいたいがそれは叶わず。
時々後ろを振り返る。
ちらちらと明かりが見える。
なにやら叫んでいるのは聞こえるが、雨の音でよく聞き取れない。
しかし、だいたいはわかる。
それは想像に易い。
「いたか!」
「こっちにはいない」
「くそっ!どこ行きやがった!」
数人の男が集まってきて情報交換を行う。
そこに聞こえてくる言葉…
「見つけ次第捕まえろ。死ななければ多少の事は許す」
雨の中をひたすら走って、どこをどう逃げたのかはもう覚えていない。
ただ、どこかここじゃない遠くへと足を動かす。
「ちぃっ…雨は嫌いなのに!」
体がすごくだるくなる。
だから嫌いだ。
でも逃げ出すには絶好の機会で…
あいつらもこの青年が雨の日は体調が悪くなるのは知っていた。
だからその裏をかいて逃げ出した。
でもそれは体に鞭打つこと。
「つ…つかれた…」
そうは思っても走る足はとめない。
まだ自分を探す声が聞こえる。
それはかすかにだけど。
そうしてようやく見えてきた、この敷地の終わりを示すもの。
3メートルはあるだろうその塀を軽々と飛び越えて…
彼は外の世界へと飛び出した。
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