人間なんてダイキライ

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「しちゅー」って食べ物は匂いも美味そうだったが、味もなかなか美味かった。 あの施設で出されるものは美味いなんて感じられるものはなかった。 辛い、甘い、すっぱい、しょっぱい、苦い… そんな味はわかるが、そこには「まずい」もなかったが「美味い」もなかった。 だから食いもんで感動したのは初めてだ。 …そもそもあの施設で感動なんてものも味わったことないけどな。 とにかく美味かったから今は俺、機嫌がいい。 と、そこまで思って振り返る。 こいつと会ったのはつい数時間前。 その間にいままで感じたことがない感情をいっぱい感じた。 ちら、とそいつを見るとそいつは俺にへらっと笑ってみせる。 「何だ?」 「別にー」 えへへーとまた笑うそいつの顔がしまりがないったらありゃしない。 「変な奴だなお前は…」 「ヴィーヴィル!」 「?」 「お前って名前じゃないよ!ヴィーヴィル!」 今度は頬を膨らませながら怒ってる。 本当に忙しい奴だな… 「で?君は?」 「は?」 「は?じゃなくて名前!」 「そんなモンねぇよ」 「え?」 「え?じゃなくてないっつってんの」 こいつ…じゃなくてヴィーヴィルの真似してそういってやると今度は難しい顔をした。 「別になくても何てことなかったんだよ。こんなんなのは俺だけだったからな…」 思い出してちょっとムッとする。 創られたというのを思い出したからだ。 俺は別に生まれてきたくもなかった。 なのに無理矢理創られて、なんであんな思いしてなきゃならないんだと思った。 異形の姿は俺だけだ。 俺を表す言葉は「あれ」ですむ。 だから名前なんてないのだ。
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