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てっとり早く一番手前のドアに体重をかける。
開いたドアの先には、のどかな風景が広がっていた。
名前の知られていないであろう野花に、柔らかい風が吹く。
思わず踏み出した足の裏に、土の感触が心地好い。
なだらかに広がる野原の先には、湖が山々を写し取っている。
スーツが汚れたり、皺になるのも気にせずに、思わず座り込んで風景を眺めてしまう。
そこは、なぜかとても懐かしく、いつまでもとどまっていたい心地好さを持った場所だった。
『見慣れた美しい絵画を切り取ったような場所』
万年筆で、白紙に文字を書いていく。書き心地は素晴らしく、しっくりと手に馴染んだ。
何かを・・・忘れていた何かが、カチリと音をたててはまった気がしたがそのことは書かずにいた。
書き終えると亜理子は、少年の元へ戻り、名残惜しそうにドアを閉じる。
「何かを見付けられたようですね。」
亜理子を見て少年は微笑んだ。
「このドアは、どこに繋がっているの?」
思わず亜理子は口羽しる。
「どことも繋がりながら、どことも繋がっていません。さぁ。次のドアへどうぞ。」
不思議な言い回しをしながら、再び少年はドアへの道を開けた。
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