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「最後の扉です。貴方は何を意味しているか。もうおわかりですね。」
少し寂しそうに薔薇色の唇が告げた。
そう。
扉の示すもの。
亜理子は薄々感じとっていた。
それは認めなくないものであり。
認めることは、ここでの時間の終りを意味する。
「君は誰なの?」
最初のとげとげしさはない。
亜理子はゆっくりと、銀の懐中時計を見つめる少年に訪ねる。
研きあげられた陶器の様に艶やかで整った顔の少年。硬質な様で柔らかい表情。
薔薇色の唇は・・・。
思い返せば、どこかで、見覚えのあるものの様な気がした。
少年は薔薇色の唇を微笑みの形に変え、最初の時の様に、真っ直ぐに澄んだ瞳で答えた。
「時計うさぎと・・覚えていただけたら、光栄です。」
亜理子にうさぎ。
まるで、不思議の国の物語をなぞらえているようだ。
ふっと、亜理子の表情が緩む。
「わかったわ。ありがとう。」
その言葉に、少年は、初めて少年らしい笑みを見せた。
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