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少年は禊の行動を無言で見つめていたが、ふとおかしそうにくすくすと笑い出した。
「島民は森に入るのをひどく厭うと聞いていたが、あの少女は違うようだな。」
禊は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「ただの怖いもの知らずでしょう。
新月の夜にこんな森の深くで遊び回るなんて、普通の神経とは思えません。」
「あぁ、例の新月信仰か。この島では古くから伝わっているらしいな。」
少年はまたくつくつと笑うと、崖の方へ歩き出した。
革靴で石畳をカツカツ鳴らし、石碑に手を置くと先程まで晶が手入れしていた花壇を覗き込む。
「見ろよ。誰が花を植えたのかと思っていたが、彼女が世話をしていたらしい。
・・・健気なことだ。」
少年の手が労るように花びらに触れる。
「・・・だいぶあの少女がお気に召されたようですね。」
禊は主の様子に驚きながらも要求通り傍へ行くと、つまらなさそうに少年の後ろから花壇を覗き込んだ。
月明かりが差し込み、禊の姿を照らす。
少年は明かりに気付くと新月を見上げた。
「月には言い伝えがあるのを知ってるか?
新月に願い事をすると満月に叶うらしい。
しかし僕の願いは満月を待たずに叶ってしまったみたいだ。」
「あの少女にそこまでの価値があるとは思えませんが・・・しかしあの顔・・・」
考え込む禊に頷くと少年は立ち上がり緩む口角を引き締める
「・・・あぁ。やっと見つけた。
今こそ始動の時だ―――。」
月明かりが少年を照らし、禊は深々と頭を下げた。
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