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歪んだ笑みを浮かべ、医者が自嘲気味に言う。
その時、うわあああ…と子供の泣き声が届いた。
どうしたんだと見に行くと、子供が看護婦にすがりついて号泣しているのが目に入った。
「どうしたんだ」
医者が子供の痩せた背中をさすりながら看護婦に尋ねる。
「体を洗っていたら泣き出してしまったんです……。坊や、大丈夫だからね、もう泣かないのよ」
「おとうしゃあああっうっうえっおとうしゃあああああ……あああ……くっふぇええええ……っ」
「大丈夫、大丈夫よ……」
一体、何が大丈夫だと言うのか。
奇妙に冷めた気分でその光景を見る。
嗚呼。
その柔らかい胸に抱きしめられたら、きっととろけるほどに温いのだろう。
そんな風に抱きしめられたことないが、大体の予想はつく。
「泣く元気があって、良かった」
無意識に出た言葉はどんな色をしていたのだろう。
どうせたいした物ではない。
知覚できないことに意味はないのだから。
子供用の服はないそうなので、泣き疲れて気を失うように眠ってしまった子供に自分の服を貸し与える。
着ていた服は洗っても洗っても酷い臭いをさせていたから、もう着せられない。
「ひっ…ひう…うああ……!」
酷い夢でも見ているのか、うなされている子供の手を握る。
「おと……しゃん……!おとうしゃあああん……!」
器用に夢の中の父を呼びながら泣く子供の手を引っ張る。
――名前。名前、知らねえや……。
ギリ、と唇を噛み締め、ベッドを乱雑に叩く。
「おい、戻ってこい!クソガキ!てめえの親父はそこにはいねえぞ!」
ぱちんっと音が鳴るんじゃないかと思うほど、勢い良く子供が目を覚ました。
「あ……?ここ……」
「町医者のとこだ。お前、名前は?」
乗り出した身を元に戻し、その勢いですぐそばに設置してあった椅子に腰掛ける。
「こ……コロ……ッケ……お兄しゃん、は、誰?」
「……俺はマカロニ。森で倒れてたお前を助けた。あそこで死んでたのはお前の父ちゃんか?」
「…………う……」
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