あのとき、あの場所で

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手をかけ、扉を開けた。  傾きかけた太陽の日差しが差し込む校舎。    グラウンドから野球部及びサッカー部の歓声が聞こえる。  そのクラスにはたった一人のほかには誰もなく、主を無くした机が整然と並んでいる。  視線をめぐらす。  ひとり残り、もくもくと山と積まれたプリントに取り組んでいた女子。  こちらには気づいている様子がない。  ぱたん、とん。ぱたん、とん。  横長の長方形の形をした印を持つ手は休みなく、プリントと朱色の印鑑台とを往復している。  押印されたプリントは左側の、まだ右側の山の半分くらいの高さの紙の束の上に積まれていく。  ぱたん、とん。ぱたん、とん。  斜光が暗い色合いの髪にあたり、睫が落ちた熱心な瞳に複雑な陰影を落としていた。  きれいなうなじから後ろでまとめたほつれた髪が落ちて汗ばんだ肌にくっついているのが見えた。
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