形見

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「アキ……」 ケータイを握りしめる。 欲しい温もりは欠片もないけど。 欲しい言葉はもらった。 幸せだったって、遺してくれていた。 たとえそれがアキの精一杯の強がりだったとしても。 その言葉を信じたい。 「本当に……優しいんだから」 アキがいなくても今日は終わって、明日は来てしまう。 アキだけを昨日に置いてきぼりにして。 寂しい。 悲しい。 辛い。 なのに。 笑えってアキは言う。 笑えるかな? 涙が止まらないんだけど。 それでも笑わなきゃダメ? でも。 アキの最期の。 かわいくて優しくて厳しいお願い。 きっといろいろいっぱい諦めざるを得なかったアキ。 そのアキの願い事、私だけでも叶えないわけにはいかない。 手の甲で涙を拭って。 必死に口の端をあげる。 きっと酷い顔だ。 笑顔には程遠いだろう。 でも努力は認めて? 絡めてくれる指はもうないけど。 小指を空にかざした。 アキの願いをいつか現実にするために。 ―――――――――――――END――――
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