遠い幸せ

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今日、あの人を見かけた。 それは小さな小さな偶然。 そんなこと、今日が初めてじゃない。 今までも何度か見かけたことがある。 でも、別に、挨拶をするわけでも、会話を交わすわけでもなく、何をするわけでもない。 本当に見かける程度。 なのに何故かあの人の事が気になった。 あの人を見ると、何故だか顔が綻んでしまう。 どんなに気持ちが沈んでいても、あの人が私の視界に入った途端、何事もなかったかのように気が楽になった。 初めはそれでよかった。 たまに、遠くで、ほんの少し、見かける、それだけでよかった。 …いつからだろう。 いつから私は、あの人を目で追うようになったんだろう。 私は何故、いつ、あの人を気にかけるようになった? 私は…。 自分で自分がわからなくて…。 そんな自分が余計に解らない。 分からないことが多すぎだ…。 何が原因かもわからないけど心に霧がかかったみたいだ…。 変な感じ…。 いつしか心の何処かで会えることを期待している自分が居ることも判らないままその日、その日を過ごしている。 霧はいっこうに晴れない、それどころか濃くなったきもする。 未だに原因不明。 不安もあるけど、誰に話すでもなく、ただ、何となくフラリと町へ出かける。 いつもと変わらぬ町並みを眺めながら歩く。 家があり、店があり、猫がいて、人が行き交うそんな町並み。 ぼーっと見てる。 …この頃はいつもこんな感じだ。 集中なんてすぐに消えるし、やることはあるのに、やる気になれない。 何も手につかないから、暇でもないのに暇だと言って町をふらつく。 気がつけば溜め息をひとつ、ひとつ、こぼしている。 ぼーっと四六時中妄想にふけている。 目を開いても、閉じていても、何ら変わりはしない。 (なんだか下向くこと多くなったなぁ~。)とか、ホントに時々、自分を振り返る。 「……ハァ」 ゴツッ 「っ!!!。」 「う゛~。…いっイタイ…。」 ぶつかった。 電柱に…。 俯いていたので丁度頭をちょっと派手…いや。 コブでもできるんじゃないかってくらい思いっきりやってしまった。 しかも痛さのあまり電柱に片手をついてうずくまってしまった。 痛いのとか、恥ずかしいのとか、…色んな意味で泣きそうだ。 気分は勿論最悪。 タッタッタッ 小走り気味の誰かの足音が近づいてくる。 「…大丈夫?」 優しい響きの控えめな声。 …心配してくれているのがわかった。
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